会いたい、と唐突に思った。



1、2、3。
指を折って数える。単位は、『日』。3日だ。たった3日、たかが3日だ。
あの人の笑顔を見てから3日。
あの人の優しい手に撫でてもらってから3日。
あの人の、いつの間にか大人のようになった腕に抱きしめてもらってから3日。
あの人の、熱を分けてもらってから、3日。

(どうしよう)

たった3日だ。

携帯電話を握り締めて、私はその場で丸くなった。
今日は珍しく仕事が早く終わったので、私はもう部屋に帰ってきていた。本局の制服はもうきちんとハンガーにかけてある。今はタイトなデニムスカートにオフホワイトのサマーセーター。いつも片側で結っている髪はゆるい三つ編みにしてみた。つまり、もう出かける準備は万端。

(忙しいかな?忙しいよね?)

携帯電話には、彼の名前と電話番号が表示されている。
あとは、通話ボタンを押すだけ。

(新しい仕事が入った、とも言ってたし)

けれど、どこかにでかけているということはないはずだ。壁にかけられたカレンダーを見上げながら彼との会話を思い出す。そんな風な話は話題に上らなかった。
だから、彼はきっと仕事場にいるはずだ。

(けど、疲れてるよね…)

無理ばかりしてしまう彼のことだから、今頃もきっと疲れてふらふらになっているはずだ。
目の下に隈を作っていたりして。

(わあ、それじゃ余計に様子見に行かなくちゃ!)

縋ってもいい理由を見つけたような気がして、一瞬舞い上がる。私のただのわがままではない、会わなくてはならない理由がほしかった。しかしすぐにその気持ちはしぼむ。私が見に行かなくても彼の周りの人がなんとかしているはずだ。それぐらいには、彼は周りの人たちに大事にされている人だ。ということは私だってわかっている。

(どうしよう…)

思考は、渦巻いて答えを見失う。
だって、まだ3日しか経ってないのに。
幼馴染でいるうちは私も彼も忙しかったから1ヶ月でも2ヶ月でも、会えなくても平気だった。たまに会う休日はほんとうに楽しかったけれど、あえなければ仕方ないと思っていた。
なのに今はどうだ?1ヶ月が我慢できなくなり、2週間も無理で、1週間会わなくて泣きそうだった。そして今は、3日だ。3日会っていないだけなのに。
会いたい会いたいというこの気持ちをどうしたらいいのだろう。
胸の奥がきゅんとなって、指先までせつなさで痺れる。
こんな切なさは知らなかった。愛しくて切なくてどうしていいのかわからない。

今すぐ通話ボタンを押せばいい。
そうすれば彼は、疲れていようと忙しかろうと少し笑って私を迎えてくれるはずだ。
しょうがないね、なのは。
そう、笑って、抱きしめて…ほしい。

(…会いたい、会いたい、会いたい)

そう思う私を彼は笑うだろうか。馬鹿にはしないだろう。でもあきれるかもしない。
困るかもしれない、それが一番可能性が高い。
わかってくれるだろうか、この切なさを。彼も抱いてくれているだろうか、この切なさを。
私一人のわがままであったらどうしよう。それが怖くて通話ボタンを押せない。


でも、そのうちに、1日だって我慢できなくなるに決まってる。


















06.もう、波は消えない
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