「ここにいたんだね」

夕焼けがまぶしくて、うまく目が開けられない。海沿いの風は少し塩辛い。基本的に山で生きてきた自分にはしばらく慣れなかったけれど今はもうすっかり馴染んだものになった。それぐらい、もうここで生活していた。

「…ユーノくん」

彼女のシルエットが光を遮る。けれどその後ろからあふれた光が広がって、ちょうど影になって彼女の顔はよく見えない。
けれど、どんな顔をしているのかは容易に想像がついた。
少しだけ歩を速めて彼女の隣に立つ。直接に顔を覗き込むのはあまりにも無神経だろうと思って、敢えて顔を見ないまま今まさに沈みかけている太陽を見つめる。
夕焼けが目に染みる、というのはこういうことだろうか。

「…聞いたよ、五課の隊員のこと」

言うべきか、言わざるべきか躊躇ったけれど、結局言ってしまった。しかし、どう言葉をかけるかも考えていなかったくせに、あまりにも軽はずみだったとひどく後悔をした。

「そう」

答えて笑う、彼女の顔があまりにも切ないのを声をかけた拍子に見てしまったからだ。

「知ってる人だった?」
「うん…。一緒に、教導したことのある人だった」
「そう…」

それならばなおさら、辛いだろう。僕自身知っている人ではなかったのに、胸が痛んだのだから。その人の、訃報に。

「職務中に未確認の兵器に襲われたんだって」
「そっか…」

淡々と語れば語るほど、聞いていて辛かった。

「なのは」
「…大丈夫だよ、ちょっと、びっくりして…悲しかっただけ」

僕が、ここの潮風に慣れたように、なの.はももうすっかりここでの生活に馴染んだ。
つまり、彼女もそれだけの時間を第一線で過ごしてきたということだ。その間にどれくらいのこのような悲しみを味わったのか、全てを知っているわけではないのでわからない。最初はきっと、彼女も声を上げて泣いたのだろう。そうはしないだけ、彼女はこの痛みに慣れてきたのだろう。だからといって、その悲しみ自体が軽くなったり、変わったりするわけではない。

「なのは、僕にしてほしいこと、ある?」

なんでもするよ、と殊更におどけて見せた。彼女の悲しみを少しでも受け止めてあげられたらいい、と。

「ユーノくん…、ありがとう。それじゃあね、あのね」
「うん」
「…手を、つないでほしいな」

悲しみを隠したまま彼女が笑う。その笑顔が切なくて苦しくて、答える前に彼女の手をぎゅっと、握り締めた。
痛いよぉ、と少しだけ笑った彼女の手のぬくもりを失わないようにきちんと指を絡めて、握りなおす。

「ありがとう、ユーノくん」

この手のぬくもりを、なくしてしまう日が来るなんてかけらも思っていない。
だけど、今だけはこのぬくもりを感じていられる幸福に浸ろうと、そう思った。













04.手を繋いで隣を歩けるだけで
inserted by FC2 system