(ばか!ばか!ばか!!)

制服のまま思い切りベッドにダイブする。皺なんて気にしていられない。相部屋の金髪の幼馴染は今日は仕事でまだ帰ってくるはずがない。私は落ちるままに枕に涙の染みをつくった。

(ばか!!)

部屋に帰ってくるまでどこをどう通ってきたのか覚えていない。ただ激情のままに廊下を走り抜けてしまったから、どこかで誰かにこの顔を見られたかもしれない。
涙でぐちゃぐちゃになったこの顔を。
頭の中が真っ白で何も考えられなかった。この部屋について、ロックをかけて、ベッドに倒れこんでやっと頭が正常に動作しはじめた。
そうして行き着いた思考の果てはどれほど自分が馬鹿だったかというところだった。

(違うのに、ちゃんとわかってるのに、ユーノくんがそんなことしないって)

頭ではちゃんとわかってるのに、それでも彼を責める言葉を口にしてしまった自分が死ぬほど情けなかった。やっと頭が落ち着いてそういう風に思えるようになってきた。あのときはもう、ただ混乱してどうしようもなくてあんなことを言ってしまった。ちゃんとユーノくんは説明してくれたし、そこにやましいことは何もなかったのに。話も聞くまえにあんなこと言ってしまった自分がものすごく恥ずかしかった。恥ずかしくて苦しくて仕方なくて、そのまま逃げ出してしまった。

(大嫌い、なんてそんなこと…)

そんなこと、かけらも思っていないのに。
ああ、ユーノくんが誤解してしまったらどうしよう?私の事、もう嫌いになってしまったらどうしよう?私みたいなおばかさん、見放しちゃうかも…。
電話も、メールも来ないし、ひょっとしてもう、

そう思うと、再びじわっと涙が浮かんでくるのがわかる。思い切り暴れたくなる。
どうしようもない自分に苛々して、でもどうにもならないからただひたすらに泣いた。






どれくらいそうしていただろう。ふと気づくと部屋に差し込んでいた夕日はすっかり影を潜めて密やかな暗闇がすぐそこまで迫ってきていた。
泣きすぎで視界がぼやける。頭も痛い。水を飲もうと立ち上がって、ふと傍らの携帯電話を見下ろすとメール受信を示す緑のランプがかすかに点滅していた。
慌てて携帯をつかんで、メールを開く。それは、待ち望んだ人からのメールだった。

『そろそろ落ち着いたかな?落ち着いたなら、会いたいから連絡してくれると嬉しいな。いや、僕が会いたいから、絶対に連絡をください。…大丈夫だから、ね?』

その文字列を見たとたん、枯れたと思った涙がぶわっと溢れてきた。
どうしてこんなどうしようもない私に彼はこんなに優しいんだろう?
どうしてこんなに私を大切にしてくれる人を一瞬でも疑ったりしたんだろう?

(会いに行かなくちゃ)

早く、顔を洗って、あの人のところに行かなくちゃ。
こんな私だけど、本当に好きなんだよって、言いにいかなくちゃ。

そうしてやっと、私は立ち上がった。









03.ひねくれ者のおまえのことなんて、
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