「あれ?なのはちゃん、どうしたんそれ」
「え、どれ?」

それ、となのはちゃんの胸元を指差すと合点がいったというように彼女はうなずいた。
そしてその顔が幸せそうにゆるむのを見て正直聞かなきゃよかったかもという思いにかられたけれども、話を振った以上は聞かなくてはならない。
私が指差したのは彼女の胸元で揺れる、銀色の小さなハート。小さいけれどもけして安物ではない輝きのネックレスを、彼女のアクセサリーボックスの中に見たことは今までない。

「えへへ」
「…もらった、んか」
「よくわかったね!」

彼女がぱあっと顔を輝かせたので、わからいでか、と思わず口の中でつぶやく。

「そういえばこの間おやすみやったもんね」
「うん、ユーノくんもおやすみもらえたっていうから、ね」
「けど、別に記念日でもなんでもないやろ?」
「そうなんだけど…なんか、いつものお礼だって」
「お礼、な」

ははは…と乾いた笑みが浮かんでしまったのを誰が責めるだろうか、いや責めまい。
彼女の元幼馴染は確かに昔からそういう傾向があった。どういう傾向かって、さらっと甘い言葉を吐くとか恥ずかしげもなくプレゼントをするとか、そういう傾向だ。

「それにね、それにね、すっごーく夜景の綺麗なところに連れてってくれたんだよ!」
「ほぉ…」
「ご飯もとっても美味しかったし!それにね、ドライブもしたんだよ!」
「へえ?いつの間に免許なんてとったん…しかしあれやね、ユーノくんは」
「何?」

大好きやね、なのはちゃんのこと。

そう言ってあげようかと思ったけれど、やめた。
だってそれは彼だけが口にできる言葉だからだ。
彼だけが、彼女と彼自身を幸せにできるその言葉を口にすることができる。

「いやいや、ええね、幸せそうで」
「…あはは」

まったく、この幼馴染を見ていると早く私も幸せになりたいとつくづく思う。
気づいているんだろうか?大好きな人のことを幸せに話せることの幸福に。

(あーあ、どっかにいい男おらんかなぁ)












02.幸福なくちびるの持ち主
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